“「26歳が見たニッポン」 サッカー日本代表MF 本田圭佑(26=CSKAモスクワ)

“「26歳が見たニッポン」 サッカー日本代表MF 本田圭佑(26=CSKAモスクワ)

「平和ぼけ」

海外に出たら、日本は本当にいい国だとあら ためて思う。 モノのクオリティー、サービス業、すべてにおいてディテールにこだわっている。ここが何につけてもアバウトな外国とは違う。これはオレの価値観が日本人寄りだから、という理由ではないと思う。外国人だって日本のサービスを受けたら絶対にいい思いをするはず。その点で、日本は世界トップだと認識している。外国に出てから、日本の良さを感じるようになった。

それと同時に思うのは 「これを築いたのは誰なんだ?」ということ。
オレたちではない。こんな裕福な今日(こんにち)の日本があるのは、先代の人たちの頑張りのおかげだと思っている。オレたちは、彼らが頑張って汗水たらして残していってくれたもののおかげで生活できていると思う。

それが今、いろんな面でまさしく危機を迎えている。オレが言うまでもなく、いろんな人が「日本はそのうち破綻する」と言うのが聞こえてくる。「なんでそうなったのか?」ということを考えないと。今のオレたちは何も築いていない。先人の財産を使ってきただけ。感謝して、今からもう一度、頑張らないといけないんじゃないか。それなのに浪費した揚げ句、責任のなすり合いが、どの場面どの分野でも繰り広げられているように見える。海外から見ると、より一層、強くそう感じる 。

なんでここまで言うのか? オレは愛国心というのか、そういう気持ちが強い。例えば、いい悪いは別にして、この間のオリンピックの竹島の問題がある。韓国の選手が試合後にボードを持った。いい悪いは別として客観的に見たら、彼は韓国を愛しているんだな、と思った。オレは日本を愛している。もしかしたら同じ状況になれば、同じように行動したかもしれない。それはその場になってみないとわからないことだけど。勝ち負けという観点からすると、韓国人が韓国を愛する気持ちに、日本人は負けているんじゃないか。これは政治的な問題ではない。単に自分の国を愛しているのか?という気持ちをくらべると、日本は韓国より劣ってるんじゃないか、という気持ちにさせられた。

政治といえば、日本に帰った時、国会中継を よく見る。見ていると、話がまったく進まない。「まぁ~、進まない」という感じで「一体誰が進めるの?」そう思って見ていた。リーダーがいない。そろそろオレたちの世代が、本物が評価される時代をちゃんと作り出すべきだと思う。本物の定義・哲学を若い人たちがそれぞれ持っていないといけないと思う。本物を選ぶその物差しを、ちゃんと形成していかなければいけないんじゃないか。

オレがいう本物とは政治家のことであったりする。彼らは税金から給料を得ているわけだし、本物であるべきだと思う。

日本でのヒーローはアイドルやバラエティー番組のタレントという形になっているけど、そういうアイドル文化は日本、厳密にいうとアジア圏内くらい。オレがいいたいのは、日本では日本の政治家こそがスターであるべきだってこと。別にアイドルやタレントを悪くいうつもりはない。 彼、彼女たちは、それぞれの立場で一生懸命頑張っている。最大の問題は支持する側にあると思う。イベントなどでワイワイ、キャーキャーと楽しむのは構わないけど、そうやって楽しい空気を亨受できる平和というものをはき違えてはいけない。

今のこの状態は「平和」というより「平和ぼけ」なんじゃないか、と思う。オレの価値観では、平和というものは自分たちの手でつかみ取るもの。本物とは何かということに対してもっと真剣に考え、議論する必要があるんじゃないか。

本物について、海外でこんな経験をした。海外では1度応援し始めた人を、最後までしっかり応援する文化がある。 サッカーでも同じ。いい時はまつりあげて、少しでもだめになったら捨てるように扱うのは日本だけ。オランダで、あるチームに実績十分のベテラン選手がいた。ただ、その選手は開幕からしばらくパフォーマンスが物足りなかった。日本だったら「あの選手は終わった」と言われたりする。でもオランダの監督やコーチたちの声は違った。その時、聞こえてきたのは「いい選手であることに疑いははない」という言葉。すごく冷静な分析だったと思う。 マスコミも「技術のある選手が明日(技術)なくなることはない」と伝えていた。サッカーの本質を突いていると思った。マスコミも、監督や選手も「あの選手がどれだけ貢献してきたか忘れたのか?」という論調。これこそ、本物だと思った。

日本は芸能人であったり影響力のある人でも 、政治家でなければ、政治のことをしゃべるとたたかれる。「なんで?」と思う。オレが政治についてしゃべったら「本田、スポーツ選手のくせに政治を語るな」 と、たたかれるはず。多分、世の中の大多数がそう思うはず。でも、そうではないんじゃないか。オレも日本国民。政治のことを語る資格があるはず。日本をこうしたい、と思うことをしゃべる。それが真剣な発言だったら、足を引っ張るんじゃなく、議論する環境をみんなで前を向いて作っていくべきなんじゃないか。

今は、何でもネガティブにとらえ、悪いところをクローズアップしてしまう。これは日本の悪いところだと思う。もっと素直にならないといけないし、もっと謙虚にならないといけないと思う。

もちろんオレはサッカー選手。サッカー選手としてピッチの上で結果を出す、それが今の自分に求められていること。そこはもう最低条件だと感じている。結果を出さないと意味がない世界で生きている。何を言おうと、オレが試合に勝たないと、オレが点を取らないと、オレがゴールに絡まないと、はっきり言って説得力はなくなる。 ただ、オレはまったく結果が出ていない時から、まわりにこう思う、と言い続けてきた。中学の時から「W杯で優勝する」と言っていた。その姿勢を変えたことは1度もない。今後もし結果が出なくても、W杯にケガをして出られなくても、オレは言 い続ける。これがオレだから。「何を本田、エラそうに」と批判されても、構わない。そうやって生きてきた。それが本質だと思っている。誰にでも意見を言う権利があるということを、伝えておきたい。 「サッカー選手で、日本代表の本田だから言える」のではない。 オレたちの世代も、みんなどんどん意見を言ってほしい。そして、みんなが聞く耳を持ってほしい。オレは今、そう言いたい。”